折々の水木ファン−其之参−
この話は、ある水木ファンの折々の言動を描いています。
水木作品のファンの方でなくても読めますが、ファンの方にしかわからないネタかもしれません。
ではどうぞ。
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会社員Aの朝は1杯のコーヒーで始まる。
砂糖により軽く摂取した糖分が起きたばかりの脳を動かしてくれるし、
空っぽの胃に僅かではあるがカフェインを染み込ませる事により、その日1日の活動のスタートの切っ掛けとするのだ。
本人は少なくともそう思っている。
無論、それだけではちゃんとした食事とは言えない。
朝ごはんは例え少なくてもしっかりとる主義のAは、食パンもしくは他のパンを頬張るのが常である。
横にはコーヒー。
例外はあっても学生時代からの、それはAの習慣だった。
その日、朝からAは体調が思わしくなかった。
もともと朝はそれほど食欲のないA。
気分がすぐれず、胃に何も入れたくないため、ポリシーには反したが、その日はコーヒーだけを飲んで出勤した。
倖いにも仕事はさほど多くなく、正午――昼休みをむかえる。
しかしまだAの体調は快復しておらず、彼は弁当を買いに行く気にもなれなかった。
A(心の声):(…入らないっつっても、何か入れないと駄目だしなぁ……)
とはいえ、固形物は気分を悪化させると思われた。
そうなると流動食か液体という事になり、Aは外の自販機に向かう。
普段は家からお茶を持って来るため、余り使用しない自販機。
第一に品数が少ない。
しかもAはこの時、いわゆる"あたたか〜い"飲み物を求めていた。
自然と選択肢は狭くなっていく。
そして――Aが買ったのは、コーヒーだった。
仕事も終わり、帰宅するA。
A:「ただいま」
「おかえり」との声が返る。
朝から具合が悪かった事を知っている家族は、大丈夫だったかと訊いてきた。
その頃には体調は戻っていた為、気遣いに温かいものを感じながら、Aは「大丈夫」と答える。
そして
キッチンでくつろぐAに、「何か飲む?」と声が掛けられる。
Aは答えた。
A:「僕はコーヒーでいいよ」
―――間―――
A:「………………………ごめん。やっぱり…お茶を……」
不思議な沈黙のあと、Aは呟いた。
その数秒間にAの心中でどのような思いが去来したのか……
それは本人にしか解らない。
大丈夫か、水木ファン?!
(了)