青く澄んだ空の下で
青く澄んだ空に輝くのは直視できないほどに眩い太陽。
彼が恋焦がれてきたものは、手に入らないことが明らかになっても変わることなく世界を照らし続けている。
外に出た一瞬、日差しの強さに目がくらみ手のひらをかざして太陽の光を遮る。
「いくぞ」
バーンは隣にいる彼女に声をかけ、銀色の長い髪を風になびかせながら歩き始める。額にはいつものようにバンダナを巻いて、その下にある醜い傷を隠す。すでに完治しているのだが、こんな晴天の日は少しだけ傷が疼く。それは、かつて大魔王であった日々の忘れられない積年の想いの欠片かもしれない。
大地を踏みしめる自分の足音と、隣を歩く彼女の軽やかな足音が単調に響く。
大別すれば穏やかと呼べるような毎日。かつての彼が、今の彼を見たときに何と言うだろうか。
堕落したと表現するかもしれない。
惰弱したと嘆くかもしれない。
あるいは、魔族としての誇りを何処にやったと罵るかもしれない。
それでも――――――
足を止め、空を見上げる。
抜けるような青空の中心に、いつもと変わらず大地を照らす太陽がある。
急に立ち止まったバーンを心配したのだろう。小さく鳴いて、彼女はバーンの肩にアゴをのせた。
「パトリシア……」
美しい白い毛並みを持つ愛馬の鼻の部分を撫でると、パトリシアは気持ちよさそうに目を細めた。
「行こう。もう少し先だ」
バーンが再び歩きだすと、パトリシアも歩調を合わせてついてくる。
居候している家主たちから頼まれた、彼女の世話。
仮にも元大魔王である自分が何故と思わないわけではない。けれど。
―――――そう悪くない
そんな風に感じている自分がいることを否定できない。
目的地には、すぐ着いた。
彼が住まう村から少し歩いた場所にある、開けた広場。広場の向こうにはこんもりとした森が見える。
ここは、彼女の運動場だ。天気の良い日は、ここでパトリシアを運動させるのが日課だった。
手綱を外してやるとパトリシアは小さく嘶いたあと、広場を自由に小走りし始める。引き締まった筋肉が緩やかに脈動し、小気味良い蹄の音を広場に響かせる。その音は徐々に速いリズムを刻むようになる。パトリシアは稀に見る駿馬だ。
彼女が本気をだせば、この国で一番早く走れるだろう。
風が流れる。森の木々を揺らし、葉が擦れ合う音がする。
ある程度走って満足したパトリシアはバーンのもとへと戻ってきた。汗をかき、火照った身体を冷ますために、彼女を木陰へと連れて行き腰を下ろした。パトリシアもその隣に座る。
「………………」
バーンは小さく息を吐き出した。彼らに対する視線が一つ。それは先日から時折感じていたものだ。一応、広場の隅の木の陰に隠れているつもりなのだろうが、非常に拙い。
『―――――気になることを放っておくなんて、らしくねぇな。バーン』
昨夜の同居人の言葉を思い出す。
それに乗せられるわけではないが、たしかに気になったものをそのままにしておくべきではないだろうと考えた。
「何の用だ」
ソレが隠れている木の影をまっすぐに見ながら声をかけた。
途端に影が驚いたように小さく揺れる。恐る恐るといった様子で、木の影から顔を出したのは、ほんの小さな子どもだった。握れば折れてしまいそうな細い手足、ツヤのある細い黒の短い髪、大きな瞳はさらに見開かれている。バーンには人間の子供の年齢を推測することは適わない。だが、同じ人間に比してもその子どもは弱々しく見えた。もっとも、バーンにとってみればこの村に住まう住人のほとんどが脆弱な生物でしかない。
「……おじさんは、モンスター?」
子供は広場の端で体半分を木の後ろに隠しながら問いかけてきた。
「―――――何の用だと聞いている」
『おじさん』とか『モンスター』という問いはあえて無視して、再度同じ質問を重ねるバーン。
「ルゥ、散歩していたの。先生が、外に出てもいいよって言ったから。そしたら、ルゥと同じ人がいたから、見ていたの」
幼い子供特有のやや舌足らずな調子で説明する。
「……余と同じ?」
この子供は、一体何処が自分と同じだと判断したのかわからず、その言葉を反芻する。
「うん」
子供はコクリと小さく頷く。
「……そんな場所からでは、話も満足にできん。こっちへ来い」
それはなんの気まぐれか。
自分と元大魔王であるバーンが同じだと話す人間の子供にほんの僅かながら興味を抱いた。だから、バーンは子供を自分の近くに呼ぶ。
けれど、子供は木の陰から出て来ようとはせずに、首を横に振る。
「お母さんと約束したから。動物には近づかないって」
不用意に馬に近づいた子供が大怪我を負うことはままある。
だが、パトリシアは大人しく賢い。よほどのことがない限り、小さな子供に怪我を負わせることなどないだろう。
大丈夫だとバーンが答えるよりも早く、パトリシアが立ち上がりゆっくりとその場を離れていく。
「全く、本当に賢いものだ」
子供が怖がっていることを察して離れていくパトリシアにバーンが目を細める。
「パトリシアは離れた。これで、ここに来ることができるだろう?」
そう声をかけると、子供はソロソロと周囲を窺いながらバーンのすぐそばにまで歩み寄った。
「あのお馬さんは、パトリシアって言うの?」
何のためらいもなくちょこんとバーンの隣に座った子供が首をかしげる。
「ああ」
「とっても、キレイだね」
子供は目を輝かせてパトリシアを見ていた。本当は、動物が大好きなのだということがそれだけで伝わってくる。
サラサラと風が子供の黒髪をなでていく。木陰の隙間から差し込む日差しに、透けるような白い肌が照らされる。細い腕で、立てた膝を抱える姿は本当に小さい。
「それで、余と同じとはどういう意味だ?」
「……ひとり、だから」
子供がパトリシアからバーンへと視線を移す。全く恐れを抱かずにバーンを見上げる。それは、怖いものを知らない子供だから成せることかもしれない。
実際、村の大人たちはバーンたちに近づくことはない。大魔王などという肩書きはすでに失っているし、かつての彼を直接知っている村人はいない。それでも、大人たちはバーンが怖いのだ。
「ルゥもひとりなの。だから、お外に出ても何をしていいのかわからなかった」
小さな自身の身体を抱きしめるように、子供は細い両腕に力を込める。うつむいた顔からは表情をうかがうことはできないが、声音からはひどく寂しそうな感情が伝わってきた。
「ならば、明日は余に会いにくればよい」
半ば冗談交じりのその言葉に、自身をルゥと呼んだ子供は顔を上げてバーンをみた。
「本当?本当にいいの?」
会いにきてもいい。
ただそれだけのことに、ルゥは何度も確認する。まるで、バーンの心を推し量ろうとするように。
「構わん」
素っ気なく答えてやると、子供は笑顔になった。
「うん。そしたら、明日もここに来るね」
子供は立ち上がり、両手でパタパタと服についた草を払う。
「今日は、もうお約束の時間だから、帰らないと」
慌ただしく走り出したと思ったら、子供は一度立ち止まりクルリと振り返る。
「また、明日ね」
その言葉を宝物のように言い、バーンの言葉を待つ。
「……ああ、また明日」
ルゥが期待しているであろう言葉を返すと、首が折れるのではないかと心配になるほど大きくうなずいた後、踵を返して走っていった。
「また、明日か……」
バーンは気がつかない。自身の口元が笑みの形になっていることを。
そして、それは彼自身が気がつかない小さな変化のきっかけでもあった。
翌日も、天気は快晴だった。
いつものように、パトリシアの散歩のために広場に行く。
広場には、まだ誰もいなかった。
パトリシアを運動させていると、ルゥが木陰から現れた。
「こんにちわ」
今日は隠れることなくバーンのそばに歩み寄り、満面の笑顔で挨拶をする。
「ほんとうに、来てくれたんだね」
「―――パトリシアの日課だからな。晴れている日は、大抵ここに来ている」
別に約束していたからここに来たわけではないと説明したのに、ルゥは楽しそうにバーンの話を聞いている。
「そっか。ルゥは、よその人とお約束したの初めてだったから、すごく嬉しかったんだよ」
その言葉に偽りはないというのは、ルゥの表情からすぐにわかった。
「そうか」
「うん」
それ以上、特に会話をするというわけではなかった。二人は木陰で涼みながらパトリシアが走っている様子を見守ったり、鳥の鳴き声を聞いたり、風の音に耳を傾ける。
そうやって、静かに時間が過ぎた。
「明日も、また会いに来てもいい?」
どうやら、そろそろルゥは帰る時間らしい。ルゥは心配そうにバーンを見上げて問いかける。
「構わん。晴れていれば、またここに来る」
昨日と同じく、バーンは素っ気なく答え。
「うん、そしたらまた明日」
ルゥも昨日と同じく笑顔で大きくうなずいた。
そうして、バーンの村で過ごす日々に変化が生まれた。
それは、本当に小さな変化。
晴れている日、パトリシアを散歩に連れ出す。そこにルゥという名の子供が現れる。とくに何かをするわけではない。ただ、静かに穏やかに時間が流れる。
数年前までは考えられないような、気の抜けたような日々。
かつて、大魔王だった頃の自分がそんな有り様を責め立てるときもある。その想いに、囚われそうになることもあるけれど。
一緒に暮らす同居人たちやルゥを傷つけてまで行動しようとは思えず。
だから、流れる日々のままにバーンは穏やかな日常を過ごしていた。
「パトリシア」
その呼びかけにパトリシアは足を止め、小さく嘶いてバーンを見る。
バーンが頷いたのを確認すると、ゆっくりと近づいてきた。
ルゥが怯えたように立ち上がり、後ずさる。
「大丈夫だ。コレは何もせん」
そばまで来たパトリシアの首筋を撫でながら答える。
「……大丈夫、なの?」
ルゥは少し離れた場所から、パトリシアの様子をうかがっている。
パトリシアはバーンに耳の後の部分を撫でられ、ウットリと目を細めている。
そんな大人しい様子のパトリシアを見て、ルゥはバーンの服にしがみつく。
「怒らない?」
バーンの服にしがみついたまま、パトリシアの肢体を見上げる。
バーンは無言のまま、ルゥの身体を抱き上げパトリシアの背に乗せる。
何が起こったのかわからず、身を硬くしているルゥ。その後になるように、バ
ーンもパトリシアの背にまたがった。
「好きなのだろう。ならば、我慢などする必要はない」
初めて会った時から、ルゥはパトリシアに羨望のまなざしを向けていた。キレイだねと喜んでいた。
だが、親と約束しているから近づいてはいけないのだと自制していた。けれど
、バーンはそれを我慢する必要はないと一言の元に断じる。
「大丈夫かな?いいのかな?」
それでもなお不安そうな声を上げる。
「よい。余が許す」
バーンがはっきりと告げる。すると、ルゥはバーンを目を見開いて見上げた。
本当に許してもらえているのか、確かめるようにしばらくの間バーンを見つめる。
「うん、うれしい」
ルゥは素直に自分の感情を口にして、そっとパトリシアの首筋に触れた。
「あったかいね」
ルゥの撫でる手がくすぐったかったのか、パトリシアは小さく首を横に振る。
「うわっ」
少しだけ驚き、その後クスクスと声を立てて笑う。
「それに、とっても高いよ」
パトリシアの上から見た世界は、ルゥの想像以上に広々としている。
バーンが無言のままパトリシアの首筋を軽くたたくと、それを合図にゆったりと歩行し始める。
「っと……」
パトリシアの動きについていけずバランスを崩し、ルゥが声をあげて後に倒れる。倒れてきたルゥの軽い背中をバーンの胸部が支えた。
ルゥは、バーンを見て満面の笑みを見せる。
「しっかりつかまっていろ」
「うん」
バーンの言葉にルゥは体勢を戻して、両手でしっかりとパトリシアをつかむ。
倒れないように、必死になって身体を固くしている。
少しずつパトリシアの歩行のテンポに身体を合わせることを覚えてくると、緊張が緩み周囲の景色を楽しむ余裕が生まれてきたようだった。
「すごい、すごい、すごい」
普段の大人しく控えめなルゥからは想像もできないほど明るくはしゃぎ、声を立てて笑う。
だが、その笑い声が唐突に途切れた。背中を小さく丸めて咳き込みだす。息をすることさえ苦しくなりそうな、ヒューヒューと細くなった気道を無理やり空気が通る音がする。
バーンはパトリシアを止めて、ルゥを抱きかかえながら地面に降りる。ルゥを芝生に寝かせようとするがイヤイヤと首を振って、バーンにしがみつく。
「……めん……さ……」
咳き込む合間から、掠れる声が零れた。何を言っているのか聞き取れなかったが、くり返される言葉を聞いているうちに理解した。
――――ごめんなさい
謝っている。満足に言葉もしゃべれないほど苦しい中で、繰り返し謝りつづけている。
「……よい。苦しいなら、喋るな」
――――病気なのだ。
遅まきにして、バーンは気がついた。
ルゥは人間の中でも特に脆弱な部類になるのだろう。僅かにはしゃいだだけで、これほどまでに苦しくなってしまう。
常にそばにいるものの顔色を伺っていたのは、自分が弱く誰かの保護がなければ生きていけないことを子供なりに理解していたからだ。
ようやく、ルゥの苦しそうだった咳が収まる。だが、バーンの腕の中で酷くぐったりとして目を閉じ浅く短い呼吸を繰り返していた。それでも、バーンの服にしがみつくのを止めない。バーンに突き放されるのを怯えるように。
「――――風が、吹いてきたな」
バーンが空を見上げ呟く。
先程まで、晴れていた空。だが、風によってどこからか集められた雲が日差しを陰り始めていた。
広場には、誰もいなかった。
空は曇天。
ここ数日の快晴のつけが回ってきたかのように、今にも雨が降り出しそうな重たい雲に覆われていた。
バーンは踵を返して来た道を戻る。
このままでは、じきに降ってくる雨に濡れてしまう。
パトリシアが小さく嘶くが、それを無視して手綱を引くと抵抗することなく後についてきた。
そのパトリシアの不意に足が止まった。
「どうした?」
振り返り、パトリシアの視線の先を確かめる。
いつもの木の影の向こうに、いつものように小さく弱々しい幼子がいた。
「なぜ、来た」
ルゥに、バーンが声をかける。感情のこもらない低い声。
ただ、それだけだというのにルゥが身体を震わせる。
「あの……昨日のことを……」
「―――帰れ」
それは命令だった。
かつて王として君臨していた者による、至上の命。それを小さな子供が撥ね退けられるはずもない。
だというのに、子供はその場に踏みとどまる。
「……これ」
丸めた白い紙を差し出すが、それを無視してバーンはパトリシアを促して歩を進める。
立ち竦む子供と歩き出したバーン。
彼らの距離はゆっくりと確実に開いていく。
灰色の雲からポツリ、ポツリと小さな水滴が一つが落ちてきた。やがてそれは、雨粒となり白くけぶるほどに強く振り落ちてきた。
その日の夜。
バーンの同居人である魔法使いの青年ポップが、重たい表情で自宅の扉を開いた。
「……珍しいな」
戻ってきたポップにバーンが声をかける。
彼が、自分の感情をあからさまに顔に出すのはそうあることではない。せいぜい彼と恋仲にある女性についてからかった時くらいだ。
「っと、バーンか」
彼は雨に濡れた外套を脱ぎながら、顔を背ける。それはいかにも、見られたくないものを見られてしまったという様子だった。
「どうした?」
「――――村に、療養に来た患者がいるんだ」
聞いてもごまかして話さないだろうと思いながらも尋ねた質問に、意外にもあっさりと答えが返ってきた。
ポップは、周囲に心配を掛けまいと強くあろうとする傾向がある。それは、よほど彼と深く付き合っていなければ看過することができないほどのものだ。
その彼があっさりと口を割るということは、余程のことがあったのだと想像させた。
「急に容態が悪化した。今晩が峠だ。それで、薬を取りに戻ったんだ」
ポップは魔法使いのくせに回復呪文を使いこなし、そのうえ薬師の真似事までしている。それを聞きつけ頼ってくる者も多い。そして彼は薬師としても非常に優秀で、実際に多くの患者を助けてきている。
自分よりも人を優先し、誰かを助ける為に一生懸命に駆けずり回るお人好しの同居人たち。
そして容態が悪化した患者がいるのならば、急がなければならないはず。だというのに、ポップには急いでいる様子は見られない。むしろ、彼から感じ取れるのは――――迷い。
「でも患者は体力的に限界が近い。薬を使っても一時しのぎにしかならないんだ」
ポップは、薬を保管してある部屋のドアに手をかける。
「何を悩む。余には理解できん」
ある種、傲慢とさえいえるバーンの言葉に、ポップが振り返った。
「それは、お前が決めるべきことなのか?」
「……知るかよ。けど、なんとかしたいって思うのが間違いだって言うなら――――」
ポップはバーンに背を向け、薬品庫の扉を押し開く。
「俺は、最初から何もしてない」
ポップは、ズカズカと中に押し入り薬品棚から目当ての小瓶をひっ掴むと、先ほど脱いだ濡れた外套を羽織って、外へと飛び出して行った。
結局ポップは、患者を看取ることになった。
患者の家族は、最後の最期まで諦めることなく懸命に治療にあたったポップに感謝しその日のうちに村を発った。
「バーン」
雨が上がった後の澄んだ青い空を見上げていると、後ろから声をかけられた。
「―――――お前、知っていたのか?」
振り返ると、緑色の普段着を身につけた青年が立っていた。
表情が硬いのは己の感情を隠そうとしているためだろう。いつもの彼ならば、あるいはもう少し違った表情を浮かべていたかもしれない。けれど、今の疲れきった彼にその余裕はない。
「……気がついたのは、先日だ」
バーンは振り返り、静かに答える。
「人とは、簡単に死ぬものなのだな」
彼らの住んでいる場所が村はずれということもあり、周囲は静かで清涼な空気に包まれている。
「…………だから、人は残そうとするのかもしれないな」
ポップが差し出したのは一枚の丸められた紙だった。
「たぶん、お前宛だ」
ポップの言葉を聞きながら、紙を開く。
「あの子に何かしたいことはないかって聞いたら『散歩に行ってみたい』って答えたんだ」
小さな子供の、ほんのささやかな願い。この村に来てポップに診てもらってその願いは初めて叶えられた。
「そして宝物を見つけた。それをどうしても残したかったんだろうな」
それは、拙い子供の絵だった。
青い空に白い雲が流れている。
その下で、銀色の長い髪の男性と小さな子供が笑顔で白い馬に乗っていた。
拙い絵だった。
けれど、紙面一杯から楽しかったということが伝わってくるような絵だ。
「こんなものが、宝物か」
「……バーン」
「貧弱で、なんでもない小さなものを宝とするそんな矮小な生き物だと言うのに……」
バーンは子供の絵を見下ろしながら先を続ける。
「人は時に、途轍もないことをしでかす。本当に―――――」
それ以上は、言葉にしなかった。ただ、無言で空を見上げる。
「そうだな。何せ、大魔王様の心に遺るような真似をしでかしたんだ。すげぇな」
ポップも同じように空を見上げる。
子供が描いたのと同じ青く澄んだ空が何処までも続いていた。
(終)
