最後の荷をようやく積み終わり、ポップはぐったりとしてしゃがみ込んだ。
「相変わらず、体力の無い奴だ」
「んなこと言われても…」
呆れたような父の言葉に、しゃがみ込んだまま、彼は溜息をついた。
久々に実家に帰ったのは昨晩のこと。母の手料理をご馳走になったまでは良かったが、朝一番に「街に武器を卸しに行くから手伝え」と父に言われるとは思わなかった。
今も昔も、世の中の多くの『息子』に属する者にとって、父親は越えるべき壁であると同時に、決して頭の上がらない存在である。それはポップにとっても同様で、父ジャンクは逆らう事の出来ない相手の一人だ。
何より、彼はかつて家出をした身であり、今もまた世界中を旅して廻っている。無為に過ごしているつもりはないが、親孝行らしいことは何一つしていないという負い目が時に胸を刺すのも確かで。少々文句を言いながらも、父が作った様々な武器や防具の運搬及び配達を手伝うのに吝かではなかった。
―――単にここまで物が重いとは想像しなかっただけで。
「ほら、さっさと乗れ。行くぞ」
「…へーい」
ポップとて勇者のパーティーの一員。旅の期間も長いのだから、それなりに体力も腕力もついている。
だがそれは、あくまで"一般男性の平均より多少は上"という程度だ。外見からも判るとおり、彼の膂力は筋骨隆々な父親とは似ても似つかない。鉄製の武器が満載された箱を幾つも馬車に積めば、疲れるのも当然だった。荷台の上とは言え、街に着くまで休めるのは有り難い。
いつもなら街から武器を専門に扱う卸商人が来るのだが、少し前に盗賊団に襲われたのだと言う。
モンスター達が暴れなくなった現在、本当に怖いのは人間だ。平和になって職にあぶれた傭兵や民兵が、簡単に自分達の力を発揮出来る方法として『盗賊』という傍迷惑な仕事がある。どの国も頭を痛めている問題だが、解決の糸口はまだ見つかっていない。

     

幼い頃は、父にくっついてこうして街に連れて行ってもらう事が、何よりの楽しみだった。
いつもなら街から武器を専門に扱う業者が、父の打った剣を卸しにランカークスまでやって来る。けれど、たまにそれが無理になる事もある。そんな時は、父は自ら剣を街に届けに行った。―――『ジャンクの鍛えた剣』と言えば、ベンガーナではかなりの業物だ。そこまでサービスする事などなくても、買い手はいくらでも附くだろうに。
古い馴染みの業者だ、とだけ父は言っていた。いま考えてみれば、ランカークスに居を構えるまでは、父は王宮附きの鍛冶師だったのだから、その当時からの付き合いという事になる。その性格ゆえに野に下った父が、未だに懇意にしているという事は、余程の信頼関係がそこにはあるのだろう。

尤も、そんな事を考えるのはポップ自身が大きくなったからだ。



10000Hit御礼キリリクSS『背中の会話』で削った文章。…というか、正確には、例のページに置いてある「ギラ練習文」で削った文章です。ファイル名が『magic3草稿』になってましたし。
上段は、ポップが父親と出発するまでの描写ですね。腕力の無い息子と、力持ちの父親を書いていたのですが、ハッキリ言って冗長になるので削除。でも、へたってるポップを書くのは結構好きです。山ノ内はポプマ推進員(?!)なんで、彼女の前では結構かっこいい面を出すような文章にしておりますが、へたれているポップもまた、ポップの持ち味の一つですから。

下段は、荷台でうたた寝するまでのシーンですね。
多分、ジャンクさんの過去をちょっと書いてみよう、とか考えていたのでしょう。こういう細かい設定が好きなんですよ。山ノ内は心理とか過去とか未来とか、漠然としたものを書く時は、筆が進む傾向にあります。逆に登場人物の顔立ちやら服装やら、建物の外観がどんな感じかとかは、ひっじょ〜〜〜に苦手です。これは精進あるのみですね。
で、この文章を削った理由はと言いますと、ここで書き込んでしまうと、『戦闘が終わった後にランカークスに帰るよりは、義理を果たすためにベンガーナに行かねばならなくなる』のと、『ジャンクの馴染みの業者を新たに登場させねばならないから』です。
書きたい事を書けば書くほど、目指している展開との辻褄が合わなくなるというのは、自分の文章能力の低さを思い知らされる気分でした。

(09.08.20 サイトにUP)