ダイの大冒険 おまけSSS

がんばって呪文描写の練習文!その2−ヒャド−




ポップはひゅうと口笛を吹いた。 どうやら、この傭兵上がりの男は、今までの挑戦者よりは自分を評価してくれていたようだ―――嬉しくも何ともないが。

「いかがです、大魔道士殿。この鎧の前には貴方様の呪文も形無しでしょう?」

得意満面。そんな熟語がポップの脳裏に浮かんだ。
たしかに、男の鎧は自分とは相性が悪い。間近で見てはいないので断言は出来ないが、どうやら、鎧には呪文を無効化する術がかけられているらしい。
遠巻きに自分達を見ているギャラリーから、どよめきが起こる。

ひょっとしたら。あの男の方が。まさか。でも。

大魔道士が勝つだろうというのが圧倒的多数の変わらぬ意見だが、呪文の効かない相手にはもしかしたら不覚を取るかもしれない―――そんな思いが場を覆っていく。
ポップはうんざりした気分で前髪をかき上げる。こうして功名心に逸った者達に挑戦を受けるのはしょっちゅうだが、それ自体は有名税だと思って割り切れる。嫌なのは、こんな風な見世物めいた雰囲気だ。

せっかく魔法の聖水が特価で買えると聞き、予定を変更してこの町に残ったのに、喧嘩まで買わねばならない羽目になるとは。
深い溜息をついて、ポップは、既に主が避難して無人となったカウンターからアイテムを手に取った。

彼の溜息を困惑と受け取ったのか、男は更に笑みを深くする。剣を構え、既に勝利を確信したかのように宣言した。

「さあ! 参りますぞ!」
「あー…はいはい」

気だるそうな声でポップは応える。その声音に、男は自分の支配する場の空気を汚された気がしたようだった。自分の優位を認めさせたいのだろう。わざわざこれから戦う相手に『忠告』する。
「大魔道士殿、宜しいのですか?」
「何が?」
「貴方は丸腰ではありませんか。杖か何かをお持ちではないのかな?」
「あー、杖は持ってねぇよ。バーンとの戦いで壊れちまったままだ。それに、必要ねぇし」

―――あんた程度にはな。

あくまでのほほんとした返事の中に、「手前なんぞ大した相手じゃねえよ」という嘲りをしっかりとポップは込める。
男は、ハッタリだと解釈しようとして失敗した。どこにでもいそうな目の前の青年が吐いた嘲りは、しかし嘘ではない事をその目が物語っている。
ポップの黒い瞳は、その口元とは逆に全く笑っておらず、ただひたすらに冷たく男を見据えていた。
見世物扱いにムカついていたのもあるが、自らの功名心のために、往来で喧嘩を吹っかけるような人間を高く評価するべき理由など、世界の果てまで探しても見つからない。

「…せっかくそんなご大層な鎧まで用意してくれたんだ。一つだけ呪文を使ってやるよ」
「な?!」
「そうだな…ヒャドなんかどうだ? 頭冷やすには冷却呪文が丁度いいだろ?」
「―――舐めるなよ、小僧!!」

顔の半分を覆う髭を怒りに震わせて、男は吼えた。それまでの慇懃無礼な態度は最早微塵もない。彼は手に持つ大刀をポップに向けて地面を蹴った。
怒りのあまりに単純な動きとなった男の攻撃だが、傭兵をしていたと言うだけあってスピードは一般人のそれより圧倒的に速い。
周りに群がる野次馬の何割かは、横薙ぎに払われた大刀が、大魔道士の首を飛ばすのを想像して目を瞑った。悲鳴が上がる。



 きゅぽん



白刃の軌跡がポップに到達する寸前。この場に似合わないその音を、一体何人が耳にしたかは定かではない。ましてやそれが、ポップが手にしていた魔法の聖水を開けた音だなどと誰が気付くだろう。

彼らが気付いたのは、音と同時に、青年の身体が深く沈み込んだという事だけだった。

宙にあるのは、切られた大魔道士の首―――ではなく、筒状に飛び出た魔法の聖水だった。地面に叩きつけるくらいの勢いで、玻璃瓶を振り下ろしたのは…大魔道士その人。

「ヒャド」

一瞬にして魔法の聖水は瓶ごと凍りつく。陽光を受けてキラキラと輝くそれは、さながら薄紫の鋭利な槍だ。
ポップはにやりと笑う。先程までの、のほほんとした言動とは裏腹に、彼の動きは傭兵崩れの比ではなかった。いつ持ち替えたのか、左手を槍に沿え、右手で柄に当たる部分を握る。沈み込んだ体勢のまま、ポップは軸足を使って回転し、渾身の一撃が空振りに終わった男に足払いをかけた。

無様に尻餅をついた男の喉に、煌く槍が突きつけられる。

「勝負あり…だな」
「…ま、参りました」
「人は見掛けで判断しないこと。それと、往来で喧嘩を売らないこと。…勉強になったかい、おっさん?」
「は……はひ」

震える返事を聞いて、青年はようやくその目元を緩めた。「ん」と短く頷いて、彼は男の喉を槍の恐怖から解放する。

「じゃ、授業料代わりにその魔法の聖水の代金を払っとくように。以上」

パシャァ…!

踵を返したポップの後ろで、氷結化の溶けた聖水が、宙に雫を煌かせて虹を作る。ワンテンポ遅れて湧き上がったのは、野次馬達からの歓声と拍手だった。


(終)




WEB拍手でこっそり載せている呪文練習文その2です。
『いかにカッコよくポップの戦闘描写を文章で書くか』を頑張ってみる練習文ですが………、何これ! 主役フィルター掛かりすぎだろ??!(と自分で先に突っ込んでおきます)

やはり文章に動きが少ないです。本当に、登場人物が飛んだり跳ねたりしてるのがわかるような、躍動感溢れる文面…ってどうやったら書けるのか。

とりあえず、第二弾はヒャドで。メラの次はヒャドでしょう。次はギラかな…?
場所はどっかの街中。いわゆる商店街か露天をイメージして下さいませ。またしても超てきとー。まあ本編には繋がらないからいいか(よくねぇ)


('09.01.01 サイトに再掲)