ダイの大冒険 SSS
『男の料理』
今日は俺が料理作るよ。
ポップがそう言ったのは、もう月も高く昇った時間帯だった。
たまにある事なのだが、今日はやけに難しい患者ばかりが訪れた。
先程までの男もそうだった。酷い怪我を負っており、しかも錯乱状態だった。何やら呪物に手を出したらしい。
暴れる男の身体を押さえ付け、ポップとマァムの二人が解呪と治療の両方をやり終えた頃には、既に夜も遅くなっていた。
「ほう。貴様に料理が出来るとは意外だな」
患者が使っていたベッドその他をマァムと手分けして隣室に戻しながら、バーンは青年の申し出に反応した。
少し意外そうな声が返る。
「ありゃ? お前の前で作ったことなかったっけ?」
「無いように記憶しているが」
少なくともバーンの脳裏には、ポップが料理をしている姿を見たという項目は記されていない。そう言うと、ポップは「そうか」と短く応えた。
「じゃあ尚更だ。最近いっつもマァムに任せてたわけだし、今日は俺が作るよ」
当然といった態で宣言すると、ポップは台所に向かおうとする。その背に遠慮がちな声が掛かった。
「ポップ…今日は疲れてるんだから、どこかお店に行って食べればいいじゃない。今から作ったら大変よ?」
マァムだった。いつもなら、彼女が多少の料理の作り置きくらいはしている。それを切らしたからか、随分と申し訳なさそうな声だ。
主に薬の作成と患者の治療にあたるのがポップである以上、マァムの仕事はその他の家事全般になる。無論、絶対の義務ではないのだが、自然と決まった役割分担を彼女はかなり大切にしており、それを果たせなかった事を悔やんでいるようだった。
「大丈夫だって。今から着替えて、街に行って、店探して…なんてしてたらそれこそ大変だしさ」
「それはそうだけど…」
なおも言いさす彼女に、ポップはニッと笑う。
「本格的なモンじゃねぇよ。アレだ、アレ」
わずかな間のあと、マァムは「ああ!」と破顔した。
「そうね! アレなら早いわね!」
「だろ? ま、休んでてくれよ。すぐだから」
楽しそうに言うと、ポップは台所に消えた。その背を見送り、バーンはマァムに向き直る。
「『アレ』…?」
一体何の料理だ?
バーンの問いに、マァムはにっこりと微笑んで、
「ポップの得意料理よ」
とだけ答えた。
チン♪
待つこと数分。奥の部屋で錬金釜の音が聞こえた。
料理をしているとばかり思っていたのだが、まだ作らねばならない薬でもあったのか。
これでは夕食にありつけるのは1時間以上先だな―――そうバーンが思った時だった。
マァムが軽い足取りでテーブルの上に食器を並べだした。
バーンは苦笑する。いくら空腹だとは言え、その準備は早すぎはしないか? そう言ってやろうと彼が口を開きけたのと同時に、台所のドアが開いた。
「出来たぜー。さ、メシだメシだ!」
ポップの持つ盆にのった皿からは、温かな湯気を放つシチュー。
金眼を丸くしたバーンの前で、マァムが「美味しそうね」と笑い、配膳する。
「バーン、どした? 早く座れよ?」
「…………。」
こうして意外に早い団欒の時間が始まった。
「やっぱり作り方は前と一緒?」
「おう。材料入れて蓋するだけだぜ」
「本当に便利ね、錬金釜って」
「ま、料理まで出来るのを発見したのは俺だけどな」
「はいはい。…あ、ポップ。野菜はちゃんと洗ったんでしょうね?」
「当たり前だろ。勿論、イモの芽も全部取ったぜ」
「それも当たり前よ。威張って言わないの」
恋人達の取り留めの無い会話を聞きながら、バーンは無言でシチューを口に運んでいた。
こちらを見たポップが、訝しげに首をかしげる。
「バーン、今日はやけに静かだな。もしかして、シチュー嫌いだったか?」
「いや…」
「何だよ、何考えてんだ?」
何を考えているのか―――そう聞かれて素直に答えてやるとするならば、こういう内容になる。
これは、料理と言えるのか? むしろ手抜きであろうが。食べられれば良いというものではないのだ。そもそも何だその錬金釜の使い方は。きちっと洗ったのであろうな?! 昨日貴様がそれで作っていたのは『おかしな薬』だっただろう?! 大体『おかしな薬』とは何だ。もう少しましな名前をつけたらどうなのだ………
他にも二十通りほど、この若い大魔道士に向けて言ってやりたい事はあるのだが、バーンは口には上らせなかった。うかつな事を言って「じゃあお前が作れよ」と返されてしまえば終わりである。
そもそもバーンは(実に不本意な事に)居候の称号を大魔道士より贈られた身である。料理に文句などつけられるわけがない。
「なかなか斬新な料理方法だと思ってな」
数秒の思案のあと彼は無難な答えを紡ぎ、その言葉にポップは実に嬉しそうに笑う。つられたのかマァムもにこやかに微笑んだ。
二人が再び話に華を咲かせるのを聞きながら、バーンはシチューを飲み干した。
味は…まぁ、悪くはない。
(終)

おふざけSS。別タイトルは『錬事(レンジ)でチン』です。
誤解があったらダメなんですが、ウチの設定ではポップはちゃんと料理出来ます。マァムほど上手ではないですが、アバン先生に師事してる期間が一番長いので、出来ないわけがないのです。
でも今回は時間がないのもあって、チン♪ で(笑) これにしても、別に本人は手抜きとは思ってないです。むしろ研究のついで。先生も「うん、ナイスな利用法ですね!」とか言いそう。むしろアバン先生の料理食べたいなぁ…。パデキアを主とした香草料理とか。
そのうちポップはバーンにも「おぼえろ」とか言い出しそうですね。んでバーンは青筋浮かべながらやり始めて、最終的にのめり込みそう。―――はいはい妄想妄想。
ここまで読んで下さって有難うございましたm(_ _)m