ダイの大冒険 SSS

『石碑』




目の前にある小さな石碑の前で、少年はひざまずいた。
胸に手をあて、目を伏せる。

その様子を、薄緑の法衣を着た青年が、数歩後ろから見つめていた。


花を供え、二人は石碑の前に並んで立った。
青年が微笑みをたたえる。

「師匠、ダイが帰ってきたぜ」
「…遅くなりました。マトリフさん」

まるでこの日の空のような、真っ青な服がとても似合う少年が、頭を下げた。





「看取ったのは、先生とマァムのお袋さんと、俺だ」

「発作の間隔が短くなってきてな。そろそろ駄目なんじゃないかって…、俺も……師匠も、予想はしてた」

「外に出たいって言い出してな…。おぶって海辺に連れていって……その日の夜だったよ」

月の綺麗な夜だったよ、と淡々と話す青年の隣で、少年はただただ頷いていた。

少年が地上に戻ってきた時、すでに横の親友の師匠たる老人は鬼籍に入っていた―――今日より少し肌寒い、秋の初めだったという。
墓に詣でたいという自分の願いを、親友は二つ返事でOKしてくれた。

大戦で世話になった礼を、ついに直接にはきちんと言えなかった。その事が悔やまれる。
それを親友に言えば、彼は、くしゃりと少年の頭を撫でた。

「大丈夫だ。師匠は言ってたぜ」




「あとはお前らに任せた―――ってな」




「…うん」
強く頷く。
青年が、にっと笑った。



せめて、その約束はきちんと守ろう。
それが、偉大なる大魔道士への、最上にして唯一の礼なのだから。


(終)





うちの設定ではマトリフさんはダイの帰還に会うことなく亡くなってます。二度の大戦を経て、もうあの老人の身体は限界が来ていた筈ですから。
それでも、アバンやロカ・レイラ、誰よりポップといった、人との出会いに恵まれて、悔いなく旅立てたと思います。

時は移ろいますが、伝えるべきものを残せる、そんな人生が送りたいなぁ。
そんな事を思いながら書いたSSSでした。自分ではかなり気に入っています。

そして再掲にあたり、気付いたことは、「ポップの名前がどこにも出てこない」という事でした。
これじゃあ、全然ダイ大を知らない人が読んだら、『青年A』でしかない……。

まぁいいか。そんな人は多分読んではらへんやろ。
わかります…よね?(汗)